病気の話

感染症に対する免疫

久しぶりの「病気のお話」です。今回は感染症に対する免疫のことについてお話します。私は大人になってから水ぼうそう(水痘)にかかりました。
通常は子供の頃に周りで流行る病気ですから友達・兄弟からうつって、大なり小なりのブツブツ(水泡を伴う発疹)ができて、それがかさぶた(痂皮)になって治ります。
私は医者になりたての秋に担当だった末期癌の患者さんの帯状疱疹(水痘のウイルスは必ず体内に残っており体力が落ちた時にブツブツとして出てきます)がうつって、水ぼうそうの初発感染として発症したのです。
つまり子供の時に水ぼうそうにかかっていなかったために、患者さんからうつってしまったということです。
大人がかかる水ぼうそうは大変に重症で、熱発が続き痒みがひどく、強力な痒み止めで1週間は自宅安静の寝たきり状態でした。
もう20年以上前の私の研修医時代の出来事です。当時は抗ウイルス薬もなかったので回復には時間がかかりました。大学での研修が終わり次の病院にうつる時期と重なったため、ブツブツやかさぶたがとれてきれいになるまで2週間も病院を休みましたが、仕事が遅れてしまうというあせりを感じた程です。
大人になってから水ぼうそうにかかるなんて、子供の頃に純粋培養で育ってしまったのでしょうか。
一人っ子なので仕方ないこととは思います。こういう点からは兄弟がいて、病状が軽くすむ子供のうちにお互いに病気をうつしあいっこするのが得策でしょう。
もちろん水ぼうそうも予防接種があり、注射しておけばかかったとしてもブツブツがひどくなることや痒みからものがれることはできます。しかし、この予防注射ははしかなどの強制接種と違って任意接種ですから自費になります。
経験として、こんな病気にかかったよというのも悪くはないかもしれませんが。
私にはもう一つ、病気の免疫がなくて問題になったものがあります。
感染症としては恐い病気とされているはしか(麻疹)です。3年前に大学生が次々とかかって社会問題となったはしか騒ぎの時に親に問い合わせて、はしかの予防接種はしていないが軽いはしかにかかった記憶があると返事でした。
心配になって採血して麻疹抗体の有無を調べたところ陰性とのことで、はしかへの抵抗力(免疫)がないとの結果でした。その結果をみてもすぐに免疫をつけなければならないという発想には至らず、日々の診療に忙殺されてはしかの予防注射は受けずにいました。
ところがはしか騒ぎが社会問題になるような状況ですから、その火の粉が自分にも降りかかりました。
なんとはしかの患者さんを同じ日に2人もみることになってしまい、その日にあわててはしかワクチンを自分で注射しました。はしかは潜伏期間が2週間であり、ワクチンに反応して抗体ができるのも10日から2週間とのことで、病気が勝つかワクチンが間に合うかのミクロの闘いでしたが、発症せずに仕事をそのまま続けられました。ワクチンの効果が病気に打ち勝ったようです。
今では1歳児と小学校入学前の2回、はしかワクチンの強制接種の制度が確立しましたし、この時期を過ぎてワクチンを注射していない場合は中学1年生・高校3年生でワクチン接種を受けることになっており、大学入学時も麻疹抗体の有無をチェック(医師・看護士などの医療系大学でははしかだけでなく水ぼうそうなどの感染症に対する免疫の有無を全て確認)しますので、最近ははしか騒ぎは下火になっています。
自分の病気の様子を知らなかったというのもお粗末(特に医者という職業にありながらです)ですが、世の中の大部分の方は日常の忙しさにかまけて同じような現状と思います。
このようなエピソードをお読みなった方は、是非とも子供の頃に予防接種をきちんと受けているか、それとも実際にその病気にかかったかどうかを確かめられることをおすすめします。
疑問点があればいつでもお答えしますので、ご連絡下さい。